
こんにちは。青年部会で副会長をしております岡本と申します。
私は「人と組織に活力を与え、生産性を高める」を理念に掲げ、企業の現場に寄り添いながら支援を行っております。主な支援実績は、改善活動や目標管理支援、評価賃金制度の構築、組織や賃金状況の調査、SDGs経営導入支援、事業計画作成支援などです。
今回は、実務で行っている「評価制度構築」について、実例などを交えながらお伝えしていきたいと思います。ただ、構築にはいくつかの工程があり、一度にすべてをお伝えするのは難しいため、何回かに分けてご紹介いたします。
初回は、評価制度を構築する目的と全体の流れについてお話しします。
評価制度がうまく機能していない会社が多い
評価制度を導入している企業は多くありますが、うまく機能していなかったり、実質的には運用されていなかったりと、様々な課題が見られます。
その背景には、「長くメンテナンスしていない」「運用が手間になっている」ことが挙げられます。
ある会社から制度構築の依頼を受けた際、ヒアリングを行ったところ、
「実務とかけ離れている」
「着眼点によって該当する人としない人がいる」
「必要なことが網羅されていないように感じる」
など、多くの課題があることが分かりました。
この会社では10年以上前に構築した制度を、そのまま使い続けていたことが主な原因でした。
私が構築した制度も、数年経過すると実務とのズレが生じることがありますので、2〜3年を目安にメンテナンスすることをおすすめしています。
やはり、機械設備やシステムと同様に、定期的なメンテナンスが必要なのです。
また、社員だけでなくパート・アルバイトを含めて制度を運用している会社もありました。特にパート・アルバイトの人数が多い企業では、運用の負担が大きくなり、次第に形骸化してしまったという例もあります。
理想を言えば全従業員を対象にすべきですが、人的リソースとのバランスを考慮して設計することが重要です。
とくに、これまで明確な制度がなかった会社が新たに導入しようとすると、業務の手間が増えることで社員の不満にもつながる可能性があります。
制度の目的は「人材成長」
私は、評価制度は社員と会社がともに成長するために必要なツールだと考えています。
評価制度に記載されている内容は、経営者が社員に何を期待しているかを言語化したものにほかなりません。
逆に、よくある評価項目を“あてがって”作った評価シートは、社員に受け入れられにくい傾向にあります。
制度を構築することで、理想の人物像が共有され、社員が自身の成長の道筋を描けるようになるのです。
また、制度構築の過程で、経営の棚卸しや組織の再編につながることもあります。
実際、構築の打ち合わせ中に良いアイデアが生まれて導入されたり、組織形態の見直しが行われたりしたケースもありました。
評価制度に必要な「納得性」と3つの原則
評価制度を構築する際、最も大切にしているのが「納得性」です。
つまり、社員が自分の評価や処遇に納得できる制度であること。これが満足度やパフォーマンスの向上につながります。
これを欠いた制度は、むしろ現場に不信感を与える結果となってしまいます。
納得性を高めるために、以下の3つの原則を押さえることが大切です。
公平性:誰に対しても同じ基準で評価する
客観性:感情ではなく、行動や成果で判断する
透明性:評価基準や手順をオープンにし、見える化する
公平性については、評価者が判定しやすいよう明確な着眼点を設けることが重要です。
客観性のためには、評価時の注意点を事前に共有し、評価者研修を行うことが効果的です。
透明性を担保するためには、制度を積極的にオープンにし、社員と情報共有する姿勢が求められます。
制度構築までのスケジュールについて
よく用いる構築フローは次の通りです。

1. 基本方針の決定
2. 等級制度の設計
3. 評価シートの作成
4. 評価基準の策定
5. 評価の運用設計
6. 昇格条件の設定
7. トライアル評価(テスト運用)
8. 制度導入(社内説明・本格稼働)
評価制度の構築には、約12か月(1年)をかけて段階的に進めていきます。

途中で順番を入れ替えることもあります。また、「評価シートの項目を見直したい」といった要望が出る場合には、一度前の工程に戻って再調整することもあります。
このように、いきなり評価シートを作成するのではなく、まず行うべきは次の2つです。
制度をつくる目的を明確にする
例:「リーダーを育てる」「納得感ある評価にする」「処遇とつなげる準備段階」など
プロジェクトメンバーを選定する
現場をよく知り、信頼されている人を巻き込むことで、制度の浸透がスムーズになります
この段階で、評価制度の目的は“査定”ではなく“共に成長する制度”であるという認識を共有することが成功のカギとなります。
また、評価制度は「一度つくったら終わり」ではありません。
運用を通じて制度自体を育てていくという意識が必要です。
最初から完璧を目指す必要はありません。トライアル(試行運用)を行いながら段階的に導入し、徐々に組織に馴染ませていくことが大切です。
最後に
今回は、評価制度の“全体構想編”として、導入の背景と実務での始め方についてご紹介しました。
次回は、「制度設計の基本方針」について、もう少し深掘りしてお話ししていきたいと思います。
制度やルールを導入する際に共通して大切なのは、仕組みの構築と情報の共有です。
評価制度構築も、机上で考えたり、ホワイトボードに書き出したりと、その会社のことを真剣に考えながら形にしていく根気のいる作業です。
手順を踏まずに一足飛びで導入しようとすれば、現場の反発を招くこともあります。
事務所にこもりながら、そんなことを日々考えて仕事をしています。
次回も、現場からのリアルな声をお届けしてまいります。