前回は、生成AIの代表格であるChatGPTを使いこなすためのプロンプトのコツをご紹介しました。一般的な知識やアイデア出しに便利なツールですが、ビジネスの現場では次のような課題も感じられているのではないでしょうか。
「AIの回答は本当に正しいのだろうか」
「自社の製品カタログや社内マニュアルの内容を理解させた上でAIを使いたい」
「この大量の議事録から、プロジェクトの重要事項だけを抜き出せたら…」
今回は、こうした課題に応えるツール、GoogleのNotebookLMをご紹介します。NotebookLMを用いることで、指定した資料だけを知識源とするAIアシスタントを、簡単かつ安全に構築することができます。
社内情報活用でChatGPT(GPTs)よりもNotebookLMがおすすめな理由

実は、ChatGPTにもGPTsという機能があり、これを使えば社内情報を読み込ませた専用のチャットボットを作成できます。便利な機能ではありますが、ビジネスで利用する上ではいくつかの検討すべき論点があります。
ここでは、各論点についてGPTsとNotebookLMを比較して、社内情報活用でNotebookLMがおすすめの理由を説明します。
論点①:回答の信頼性(ファクトチェックの手間)
【GPTsの場合】
GPTsは、アップロードされた資料を元に回答を生成することができますが、その性質上、AIが持つ広範な一般知識と組み合わせて、あるいは解釈を加えて回答することがあります。そのため、「この回答は、本当に資料に書かれていることだけに基づいているのか?」を都度確認する必要があり、情報の正確性が求められる業務ではファクトチェックが負担になる可能性があります。
【NotebookLMの場合】
NotebookLMは、回答を利用者が提供した資料の内容に限定することを優先に設計されています。AIが持つ一般知識から自由に答えるのではなく、あくまで読み込ませた資料の中だけを知識源として動作します。生成された回答の末尾には引用元を示す番号[1][2]が表示され、クリック一つで参照した資料の該当箇所を瞬時に確認できますので、ファクト負担を軽減できます。
論点②:セキュリティとデータ管理
【GPTsの場合】
GPTsで社内資料を安全に利用するには、アップロードしたデータをAIの学習に利用しないことが保証されており、作成したGPTsの公開を社内に限定することができる「Teamプラン」や「Enterpriseプラン」への加入をおすすめします。「freeプラン」、「Plusプラン」においても、AIへの学習を設定でオフにすることはできますが、個人の設定ミスなどで外部に情報が流出する恐れがあります。
「Teamプラン」や「Enterpriseプラン」においても、社内情報をOpenAI社のサーバーにアップロードして利用することになります。ChatGPTの開発元であるOpenAIは高度なセキュリティを提供していますが、自社のセキュリティポリシーが「外部のクラウドサービスに機密情報を保管・処理すること」を許容できるか、事前の検討と承認プロセスが不可欠です。
【NotebookLMの場合】
NotebookLMでは、アップロードした資料や対話内容がAIの学習に利用されることは一切ありません。
また、Google Workspaceを利用している場合、作成したノートブックの共有範囲は原則として組織(ドメイン)内に限定されるため、従業員が誤って社外の第三者に機密情報を共有してしまうリスクをシステムレベルで防ぐことができます。
データはGoogleのサービス内で処理されるため、新たな外部サーバーにデータを移動させる必要がないため、追加のセキュリティの懸念が少なく、導入へのハードルが低くなります。
論点③:コストと導入の手軽さ
【GPTsの場合】
前述の通り、GPTsで社内情報を安全に扱うには、組織向けの管理機能がある「Teamプラン」と「Enterpriseプラン」の2つのプランが選択肢となります。
ChatGPTの料金プラン (2025年8月時点)
プランの種類 | 月額料金(税抜き) | 主な対象 | 主要機能・特徴 |
---|---|---|---|
Free | $0 | 個人利用 | 軽量モデル中心 GPTs利用可(作成不可) 組織向け管理機能なし |
Plus | $20/人・月(月払い) | 個人利用 | 高性能モデル(制限あり) GPTs作成・利用可 組織向け管理機能なし |
Team | $25/人・月(年契約) $30/人・月(月払い) | チーム・中小規模組織 | 高性能モデル(制限あり) GPTs作成・利用可 組織向け管理機能あり |
Enterprise | 要問い合わせ | 大規模組織 | 高性能モデル(無制限) GPTs作成・利用可 組織向け管理機能あり |
【NotebookLMの場合】
Google Workspaceを契約することでNotebookLMを利用することができます。すでにGoogle Workspaceを利用している場合、プランによって利用上限は異なりますが、追加費用をかけずにAI活用を始めることが可能です。
Google Workspace(NotebookLM含む)の料金プラン (2025年8月時点)
Google Workspace | 月額料金(税抜き) | 主な対象ユーザー | 特徴(NotebookLM関連) |
---|---|---|---|
Business Starter | ¥800/人・月(年契約) ¥950/人・月(月払い) | チーム・中小規模組織 | ・NotebookLM(基本版) ・上限:ノートブック100/各ノート50ソース |
Business Standard | ¥1,600/人・月(年契約) ¥1,900/人・月(月払い) | チーム・中小規模組織 | ・NotebookLM Plus ・上限:基本版の5倍 ・共有の高度制御 |
Business Plus | ¥2,500/人・月(年契約) ¥3,000/人・月(月払い) | チーム・中小規模組織 | ・NotebookLM Plus ・上限:基本版の5倍 ・共有の高度制御 |
Business Enterprise 各種 | 要問い合わせ | 大規模組織 | ・NotebookLM Plus ・上限:基本版の5倍 ・共有の高度制御 |
3ステップで始めるNotebookLM
NotebookLMの基本的な使い方を3ステップでご紹介します。
Google Drive、PDF、テキストファイル、WebサイトのURLなど、様々な形式の資料をアップロードできます。チャットボットに参照させたいマニュアルや議事録などを選びます。

資料の読み込みが終わったら、画面下の入力欄に質問や指示を入力するだけです。「宿泊を伴う出張の宿泊費の上限を教えて」「このマニュアルで、経費精算の手順が書かれている部分を要約して」「この3つの議事録から、Aプロジェクトに関する決定事項を箇条書きで抜き出して」のように、具体的に質問してください。

NotebookLMの業務活用例
1. 人事・総務部:新入社員のオンボーディングと社内問い合わせ対応
新入社員からの定型的な質問に迅速かつ正確に答えることで、人事担当者と新入社員双方の負担を軽減します。
- 活用する資料: 就業規則、経費精算マニュアル、ITツールセットアップガイド、社内用語集
- 具体的な状況: 新入社員がPCのセットアップで困っている。
- 質問例:
「社内Wi-Fiへの接続方法について、PCセットアップマニュアルから手順を抜き出して、専門用語を避けて分かりやすく説明してください。」
- 得られる回答: マニュアルから該当箇所を引用しつつ、平易な言葉で書き直されたステップバイステップの手順。担当者が回答する手間を省き、新入社員は誰にも気兼ねなく質問できます。
2. 営業・マーケティング部:提案の質とスピードの向上
過去の資産を有効活用し、顧客に響く提案を素早く作成します。
- 活用する資料: 過去の成功提案書、製品カタログ、顧客からのFAQ、競合分析レポート
- 具体的な状況: 金融業界の新規顧客へ、製品Aを提案するための初動メールを作成したい。
- 質問例:
「ソースにある過去の金融業界向け成功提案書3件と製品Aのカタログを元に、新規顧客の関心を引くためのメールの件名を5つ、本文のドラフトを300字で作成してください。特に強調すべき製品Aの利点を3つ挙げてください。」
- 得られる回答: 過去の成功パターンを踏まえた、具体的な件名とメール本文のドラフト。提案の切り口となる製品の強みも明示され、ゼロから考える時間を大幅に短縮できます。
3. 情報システム部:ヘルプデスク業務の効率化
膨大なトラブルシューティング集から、最適な解決策を即座に見つけ出します。
- 活用する資料: 各種ツールのトラブルシューティングマニュアル、過去の障害対応履歴、セキュリティポリシー
- 具体的な状況: ユーザーから「リモートワーク中、VPN接続時にエラー809が表示される」と問い合わせがあった。
- 質問例:
「VPNトラブルシューティング集を元に、エラーコード809が発生した場合のユーザー側での確認項目と対処法を、チェックリスト形式で出力してください。」
- 得られる回答: ユーザーに確認を依頼すべき項目(特定のサービスが起動しているか、ファイアウォールの設定はどうか等)が整理されたチェックリスト。担当者はこれに沿って対応するだけで、迅速で抜け漏れのないサポートが実現します。
まとめ:信頼できる身近な資料からAI活用を始めよう
今回は、社内資料をAIで活用するためのツールとしてNotebookLMをご紹介しました。
NotebookLMは、①回答の信頼性、②セキュリティ、③コストと導入の手軽さという、ビジネス利用における重要な3つの論点において、バランスの取れた優れたツールです。
まずは、チームでよく参照するマニュアルや、担当業務で扱うレポートなどを読み込ませて、その実力を体感してみてください。きっと、日々の業務に欠かせない、頼れるツールになってくれるはずです。
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