中小企業の値上げについて

目次

はじめに「皆さん、物価上昇に応じた値上げはお済みですか?

青年部会会長の白川泰憲です。

私は2005年頃からコンサルタント会社に勤務し、現在は実家の会社経営の傍ら中小企業診断士として自身のコンサルタント会社を経営しています。

昨今の物価上昇、人件費上昇といった背景の中、会社を存続させる上で必要な値上げについてお話させていただきます。

コストダウンが全盛期だった2000年代

2005年頃、私がコンサルタント会社にカバン持ちとして勤め始めた頃は、コンサルタントの成功パターンといえば「コストダウン」でした。

当時流行していた手法や書籍は、トヨタ生産方式、QC活動、VE、大量発注などで、大企業では2000年頃から普及してきたインターネットやデータベースを積極的に活用し、競合他社と比較しベンチマークなどを行っている時代でした。

中小企業においては、インターネットを業務に活用しておらず、自社の製造原価や販管費が業界平均と比べて高いのか安いのかを把握できていない会社が多かったように思います。仕入れに関しては、既存の取引先と、「長年の付合い」、「地元の企業」といった理由で、新規に取引先を選定することはありませんでした。

当時、多くのコンサルタントは、中小企業に「仕入れ先の見直し」、「調達先への交渉」、「外注の内製化」といったコストダウン策を提案し、それが非常に有効に機能している時代でした。

需要が供給を下回る時代でしたので、値上げという考え方は一般的ではなく、販路開拓もコストダウンに比べ非常に難しく、いかに他社よりもコストダウンして安い価格で受注するかというのが一般的な感覚でした。

「値上げ提案」とは「適正価格への改定」

現在の環境は、材料費、エネルギー、人件費など、ありとあらゆるコストが増加しています。過去に主流であったコストダウンで利益を出す方法は通用しなくなりました。

 現在必要なのは、

・自社の商品・サービスを正しく把握すること「原価計算」

・その代価に適正な価格設定=「値上げの提案」→「適正価格に改定」

 ただし誰もが値上げに対して、「はいどうぞ」とすぐに値上げをしてくれるものではありません。値上げの背景、価値、約束、根拠をしっかりと提示できてはじめて交渉に説得力が生まれ、上手にことが運びます。

・背景:原材料、エネルギー、人件費の高騰

・価値:自社の商品・サービスの品質、安全性、納品実績による信頼

・根拠:原価計算(製品の提供にかかるコストと必要な利益の計算)

・約束:持続可能性の確保、場合によっては競合他社からの受注を断る姿勢

コンサルタントは定性的、定量的データを踏まえ、取引先と自社双方の繁栄を考えたストーリーを提案しなければなりません。

多くの中小企業が陥りがちなな売上至上主義

「売上高はどれくらいですか?」という質問に答えられる経営者は多いと思いますが、売上総利益、営業利益、経常利益の金額や%を答えられる経営者は少なく感じます。私はまだまだ売上至上主義なんだろうなと思います。会社は売上があるから黒字ではありません。利益が出ているから黒字です。自社のコスト構造を把握していない中小企業は沢山います。

例えば、昨今、賢い会社、評判の良い会社は、いくら大手からの問合せでも利益率の低い仕事、キャパオーバーの無理な仕事を断っています。御社がその仕事を受注して売上があがっても利益は残りません。むしろその仕事が社員や外注先を疲弊させ、会社を弱体化させる恐れさえあります。

売上を重視する発想も、時と場合によっては悪くはありませんが、自身の成功体験から今回もコストダウンで対応したら利益は出るだろう、社員全員で頑張ったら生産性があがるからコストも下がるだろうという考え方は通用しにくくなっています。

値上げの必要な原価計算

値上げの一丁目一番地は原価計算です。原価がわからないと会社が儲かるか儲からないかはわかりません。売上があっても会社がよくならないことは多々あります。特に昨今のような物価高においては、売上は上がったけど、利益が出ていないことなどしばしばあります。

材料費、人件費、物流費などの経費を正確に積み上げ、自社の業務を把握して、どの商品・サービスにどれだけのコストがかかっているのかを把握する必要があります。

過去の需要と供給のバランスは完全に変化しています。買い手だけが有利な交渉をできるようにはなっていません。売り手は、顧客に自社の商品・サービスの価値を知っていただき、適正な価格を提案する必要があります。

社員の給料をあげるために、外注先にこれからも業務を継続してもらうために値上げは必要ではないでしょうか?

相手方の理解を得られれば、値上げも受け入れていただけます。お客様に自社の商品・サービスを安心して提供するためには、値上げ=適正な価格の提案は絶対必要です。

最後に

ここまで見てきましたが、コストダウンで成果が出せる時代は終わりを迎えつつあると思います。物価上昇、人件費上昇が避けられない現在、値上げは企業にとって会社を存続させる非常に重要な戦略となります。

原価計算、値上げの提案は、非常に労力を要し、交渉も粘り強く行う必要があります。大事なことは自社を正しく計算(原価計算)して、正しく伝え(値上げの提案)、取引先様に正しく評価してもらうことです。

執筆者

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白川 泰憲(しらかわ やすのり) 中小企業診断士、MBA、兵庫県立大学フェロー。大学卒業後、ベンチャー(ライブドア出資先)、会計事務所、コンサル会社にて勤務。MBA取得後、JRグループにて修行、退職後は実家の警備業を継ぐ。”列車見張員”という謎のニッチな業務をJR西日本で一番行う会社に成長させる。
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