未来を創る「価値創造ストーリー」─経営の軸を共有する重要性─

目次

はじめに

企業が持続的に成長するためには、単に利益を追求するだけではなく、社会に対してどのような価値を提供するかという視点が不可欠です。自社の強みやこだわりを活かし、どのような社会課題を解決し、社会に良い影響を与えたいのかを明確にし、「経営の軸」を定めることが重要です。

特に、環境変化が激しい昨今においては、企業理念やビジョンを再定義し、社員をはじめとする多様なステークホルダーと経営の軸を共有することが大切です。そうすることで、新たな事業を始める際に、その事業が経営の軸に沿っているかどうかが意思決定の判断基準となり、社員の日々の行動にもつながります。

経営の軸は、企業の意思を支える基盤です。木に例えるなら「根っこ」であり、近年はその根っこを共有するだけでなく、木がどのようなプロセスを経て成長し、将来どのような果実を実らせるのか、企業の未来像に至るまでを語る「価値創造ストーリー」が求められています。

価値創造ストーリーを構築するには、経営の軸を起点に自社の強みや経営資源を再確認するとともに、自社の勝ちパターンと言えるビジネスモデルの特徴は何か、社内で議論を重ねることが重要です。その過程で、これまで気づかなかった「自社らしさ」を再発見し、未来に向けて変えないものと変えるべきものを見極める力が育まれます。

本稿では、企業が自社の強みを活かしながら社会課題の解決に貢献するための「価値創造ストーリー」を構築する考え方として、「価値創造プロセス」をご紹介します。

価値創造プロセスとは

「価値創造ストーリー」と「価値創造プロセス」は似たような言葉ですが、意味するものは異なります。

したがって、価値創造ストーリーを構築するには、まず自社の価値創造プロセスを整理することが有効です。価値創造プロセスは以下の「国際統合フレームワーク」を活用して示されることが多いため、本稿ではこのフレームワークに沿ってご説明します。

価値創造プロセスを整理する4つのSTEP

STEP1:自社の経営資源(強み)は何か<国際統合フレームワーク図(以下、上図)①インプット>

まず、自社の強みを言語化します。図では財務資本から自然資本まで「6つの資本」に区分されていますが、必ずしもこの分類にこだわる必要はありません。

ヒト・モノ・カネといった一般的な区分でも構いません。目に見える強みだけでなく、組織的なノウハウや取引先との関係性などにも目を向けることで、より広範囲な強みを認識できます。そうすることで、他社との差別化ポイントや競争優位性が明確になります。

 ※6つの資本:企業が価値を創造するために活用・影響を与える資源を以下の6つに分類したもの

・財務資本:利益や負債など企業の資金源

・製造資本:建物・設備・インフラなどの有形資産

・知的資本:特許・ブランド・ノウハウなどの無形資産

・人的資本:従業員の能力、経験、意欲など人材に関する資産

・社会・関係資本:ステークホルダーとの信頼関係やネットワーク

・自然資本:水・大気・生物多様性など自然環境が提供する資源

STEP2:ビジネスモデルの特徴は何か<上図②ビジネスモデル(事業活動~アウトプット)>

STEP1で整理した経営資源をもとに、事業活動を通じてどのように製品・サービスを生み出し、収益を獲得しているのかを考えます。その中で「自社だからこそ提供できる価値」は何かを明確にすることが重要です。

例えば、ある企業では顧客ニーズを具現化する生産技術力が強みかもしれませんし、別の企業では顧客に密着した営業活動による提案力が強みかもしれません。それぞれ独自の提供価値を強化し、他の事業や製品・サービスへ展開できる再現性を持たせることで、より強固なビジネスモデルを構築できます。

STEP3:解決する社会課題は何か<上図③アウトカム>

次に、STEP1、2から生まれる影響を整理します。自社への影響だけでなく、社会への影響も考慮することが大切です。自社の強みを活かして「どのような社会課題を解決できるか」という視点を持つと具体性が増します。

SDGsなどの枠組みを参考にしながら、顧客をはじめとするステークホルダーが抱える課題に着目するのも有効です。こうした検討を通じて、自社が目指すべきアウトカム(社会にもたらしたい影響や成果)を明確にしていきます。

STEP4:不足する要素の補完と戦略の策定

最後に、アウトカムを実現するために必要な経営資源や仕組みを検討します。例えば、専門人材の不足、新製品・サービス展開に必要なノウハウの不足、資金源の不足など、現状の自社に足りない要素を整理します。

そして、それらをどのように補完していくかを中長期的な戦略として描いていきます。このプロセスを経営者だけでなく社員も一緒に議論することで、未来に向けた共通認識が深まり、「経営の軸」を組織全体に浸透させることができます。

ステークホルダーとの価値共有

価値創造ストーリーは社内だけで完結するものではありません。顧客、サプライヤー、地域社会、従業員など多様なステークホルダーと共有することで、強固な協力体制を築くことができます。

特に、中長期的な戦略や施策の方向性を共有することで、多くの共感と協働が生まれ、企業の信頼性や持続可能性の向上につながります。

未来に向けた価値創造を目指して

今回は、価値創造ストーリー構築の第一歩として、「価値創造プロセス」を中心にご紹介しました。価値創造ストーリーは、経営者や従業員の想いを込めた物語として構築し、社内外のステークホルダーに共感を広げていくものです。

そのため、その目的は企業の情報開示や広告宣伝に留まるものではなく、構築プロセスを通じて自社への共感の連鎖を生み出す重要なものです。

企業が意思を持って価値創造ストーリーの構築に取り組むとき、社会とともに歩むための「未来に向けた対話」が生まれます。経営者の想いを言語化し、社員をはじめとするステークホルダーと共有することで、企業の未来像はより鮮明に、具体的に描かれていきます。

変化の時代だからこそ、変えない価値として「経営の軸」を見直し、変えるべき課題に向き合うことが、未来の価値創造につながるのです。

(執筆:岡  奈央子)

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