はじめに
「いつか店を持ちたい」。
その準備は楽しいものですが、現実は「味や立地だけで勝てる」ほど甘くありません。
元オーナーシェフであり現役コンサルタントの私が断言します。
長く愛される店には、料理人の情熱だけでなく、経営者としての「現実的な計画」が不可欠なのです。
本記事では、開業前に知っておくべき成功の法則を厳選してお届けします。
【第1章:土台】まずは「3つのなぜ」と「市場」を知る
飲食店をやりたいと相談に来られる方の多くは、「どんな料理を出すか」や「どこでやるか」から話を始めます。
しかし、失敗しない店づくりのために最初に考えるべきは、もっと根源的な「なぜ」の部分です。
① ファーストステップは「3つのなぜ」

料理の腕を磨くことは、飲食店において極めて重要であり、大前提です。美味しいものが提供できなければ、そもそも土俵には上がれません。
ただし、「美味しい」というだけで生き残れるほど、今の飲食業界は優しくありません。
そこで私が最初にお伝えしているのが、「3つの円」で考えるという視点です。
• 情熱
なぜあなたはその店をやりたいのか。
• 強み
あなたには何ができるのか。どんな経験や背景があるのか。
• ニーズ
お客様は何を必要としているのか。
多くの失敗ケースは、このバランスが崩れています。
「情熱」だけで突っ走ると独りよがりな店になり、「ニーズ」ばかり追いかけるとやりがいを見失い、長続きしません。また、「強み」がない分野で戦っても、競合には勝てません。
この3つの円が重なる部分こそが、あなたの店の「コンセプト」の核となります。
メニューや内装を考える前に、まずはこの「3つのなぜ」を言語化し、自分自身の軸を定めておくことが重要です。
② 将来のお客様は、すでに市場にいる
もう一つ、開業前に必ず認識しておくべき重要な事実があります。
それは、「お店を開けたからといって、新しいお客様がどこからか湧いてくるわけではない」ということです。
あなたのお店の将来のお客様は、今この瞬間も、どこか別のお店で食事をしています。
つまり、市場はすでに存在しており、お客様はすでに競合店を利用しているのです。
新規開業するということは、既存の市場の中に割って入り、「あちらの店ではなく、こちらの店に行こう」と選んでもらう必要がある、ということです。
「美味しいものを作っていれば、いつかお客様は気づいてくれる」という待ちの姿勢ではなく、
「今、競合店に行っているお客様を、どうやって自分の店に振り向かせるか」
この戦略的な視点を持つことが欠かせません。
「誰に」「どんな価値」を提供すれば、今の習慣を変えてまで自分の店を選んでもらえるのか。
先ほどの「3つのなぜ」と、この「市場」の視点を重ね合わせることが、具体的な計画を作るための第一歩となります。
【第2章:戦略】「立地」と「財務」で守りを固める
コンセプトの核と市場への理解が深まったら、次はいよいよ具体的な「場所」と「お金」の話です。
ここからは、夢を語る段階から一歩踏み込み、シビアな現実と向き合うフェーズになります。
① 立地が変われば、すべてが変わる
「駅前で人通りが多いから」
「家賃が安いから」
こうした理由だけで物件を決めてしまっていないでしょうか。
立地選びで最も大切なのは、「自分のコンセプトと合っているか」という一点です。
例えば、ゆっくり食事を楽しんでもらいたい隠れ家レストランなのに、回転率重視の駅前一等地に店を出せば、高い家賃を払うために本来やりたかった接客ができなくなります。
逆に、気軽に立ち寄れるカジュアルな店なのに、人通りの少ない路地裏を選んでしまえば、どれほど美味しい商品でも存在に気づいてもらえません。
立地が変われば、来てくれるお客様の層も、注文されるメニューの単価も、すべてが変わります。
だからこそ、物件ありきではなく、コンセプトありきで場所を探す。この順番を決して間違えてはいけません。
② 経営は財務に始まり、財務に終わる

多くの開業者にとって、最大の壁となるのが「お金」の話です。
財務の計画は、単なる「融資のための計画」ではありません。
金融機関というお金のプロを納得させるための交渉資料であり、同時に、あなた自身が経営者として生き残れるかを確認するための設計図です。
特に注意すべきなのが資金配分です。
内装や厨房機器といった設備投資にお金をかけすぎ、開業後の家賃や仕入れ、人件費を支える運転資金が足りなくなるケースは後を絶ちません。
さらに忘れてはならないのが、自分自身の生活費です。
開業直後から十分な利益が取れるケースはほとんどありません。
目安として、開業後最低でも半年分の生活費は、事業資金とは別に確保しておくべきでしょう。
加えて、「利益=手取り」ではありません。
税金、公的保険料、借入金の元本返済を差し引いた先に、初めて本当の意味での手取り資金があります。
「黒字なのにお金がない」という事態を避けるためにも、税金や公的負担まで見据えたリアルな資金繰りのシミュレーションが不可欠です。
【第3章:仕組み】「人材」と「メニュー」で利益を作る
立地と財務という「守り」の計画が整ったら、最後はそれを現場で回すための「仕組み」作りです。
① 「育成」ではなく「育つ仕組み」を作る
「求人を出しても、応募すら来ない」
これは、今の飲食業界では珍しい話ではありません。
良い人材を採用して育てる、という発想そのものが成り立ちにくい時代です。
だからこそ必要なのは、「普通の人が、戦力として育つ仕組み」をあらかじめ用意しておくことです。
その鍵となるのが、「目的(理念)の共有」と「マニュアル等の整備」です。
まず、「目的(理念)」を共有することで、スタッフの自発的な行動を促します。
「何のために働くのか」。
この軸があれば、スタッフは自分で考えて動けるようになります。
ここで勘違いしてはいけないのが、「報酬のために働く」という考えかたです。
報酬はあくまで「結果」です。本来の目的(理念)を達成し、目の前のお客様を満たした結果として、初めて報酬が手に入る。このことを従業員に理解してもらう必要があります。
一方で、「マニュアルやルール」等の仕組みを整備することで、スタッフの迷いをなくし、円滑な仕事を促します。手順が明確であれば、誰でも一定のレベルで仕事ができるようになります。
重要なのは、マニュアルにも必ず「目的」が必要だということです。
例えば、テーブルセッティングやトイレ掃除一つとってもそうです。 単に手順だけを示しても、それはただの「作業」にしかなりません。「次に使うお客様が気持ちよく、衛生的に安全に使えるようにする」という本来の目的が理解できて初めて、その仕事に魂が宿り、質の高い仕事になります。
目的による「自発性」と、マニュアルによる「円滑さ」。
この二つが揃って初めて、人が自然と育つ環境が出来上がります。目的による自発性と、仕組みによる安定性。この両輪が揃って初めて、人が自然と育つ環境が整います。
② その手間もコストです。原価率だけで判断しないメニュー設計

次にメニュー設計です。ここで重要な視点は、単なる原価率ではなく生産性です。
セミナーでよくお話しする、「生ビールと瓶ビール、どちらが儲かるか?」という問いがあります。 原価率だけで見れば生ビールの方が優秀なことが多いでしょう。しかし、生ビールはサーバーのメンテナンスや、注文のたびにジョッキに注ぐという時間(人件費)がかかります。 一方、瓶ビールは冷蔵庫から出して栓を抜くだけです。提供スピードが圧倒的に速く、スタッフの労働時間を奪いません。
もちろん、生ビールと瓶ビールではお客様のニーズが異なるため、どちらが商品として優れているかという話ではありません。 しかし、経営者として認識すべきは、生産性(人時生産性)であり、それを踏まえたメニュー構成が必要です。
料理も同様です。「手作り=善」という思い込みは捨ててください。 今は高品質な業務用のソースがあります。これをそのまま出すのではなく、あくまで「土台(ベース)」として活用するのです。 しっかりした土台に、お店独自の隠し味(赤ワインやスパイス)を加えて味を仕上げる。そうすれば、ゼロから作る何分の一かの時間で、プロの味を安定して提供できます。
こうして効率化によって生まれた時間は、「より付加価値の高いサービス」や「次の商品開発」など、未来の売上を作るために使ってください。 「手間をかけるべき所」と「効率よく利益を生む所」のメリハリをつけ、メニュー全体で利益が出る構造を構築することが重要です。
【まとめ】勝てる「フィールド」で戦え
ここまで、開業で失敗しないために必要な「コンセプト」「数値」「仕組み」についてお話ししてきました。ビジネスは、思いつきや運に任せるギャンブルではありません。勝つべくして勝つための、論理的な戦いです。
繰り返しますが、勝てる「フィールド」で戦うためには次の3つが重なる「フィールド」で戦えているか、という視点が重要です。
• 寝食を忘れるほどの情熱
誰に何を言われてもやり抜ける、圧倒的な熱量が必要です。
• 自分にしかない経験や歴史
これまでのあなたの経験、スキル、苦労した過去。それらすべてが積み重なってできた「あなただけの強み」を活かすことです。
• お客様にとっての必要性
お客様が求めているもの、世の中が必要としているものに応える。これがビジネスの基本です。
この3つが重なる場所こそが、開業者が戦うべきフィールドです。
・ 最後に
皆様の挑戦が、地域やお客様にとって欠かせない価値になることを、心から願っています。
(執筆:本白水 顕治)
