展示会出展の成功術 〜「日常業務」に負けない、鉄壁の運営とフォローアップ戦略〜

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イントロダクション:活気あふれる展示会と、その後の現実

中小企業診断士の村上です。

先日、関西で開催された大規模な「食の展示会」に足を運んできました。 今回は、私が普段ご支援させていただいている企業様が数社出展されるということで、その応援と視察を兼ねてお邪魔したのですが、会場の熱気には圧倒されるものがありました。

私自身、この展示会には過去何度か参加していますが、年を追うごとに参加企業も来場者も増えており、会場全体が非常に活気づいている印象を受けました。ブースのあちこちで活発な商談が行われ、自社商品を熱心にアピールする出展者の姿、新しい商材を真剣な眼差しで探すバイヤーの姿を見て、改めて確信したことがあります。 それは、「展示会こそが、中小企業にとって販路拡大の最大のチャンスである」ということです。

優れた技術や商品を持ちながら、なかなか知ってもらえない企業が、一夜にして数百の顧客と出会える場所。それが展示会です。 会場を歩きながら、改めて中小企業の皆様に関わり、その成長をご支援できていることに、診断士として大きな喜びとやりがいを感じる一日となりました。

さて、そんな熱気あふれる展示会ですが、成功の鍵を握っているのは、実は「会期中」だけではありません。 前回は「事前準備」についてお話ししましたが、今回はその続きとして、展示会の成果を決定づける「当日の運営」と、そして何より重要な「会期後のフォローアップ」についてお話しします。

実は、今回お伝えする内容は、私自身が過去に多くの支援現場で痛感してきた「ある失敗」に基づいています。 展示会は「準備」で勝負が決まると言いましたが、その「準備」には、「終わった後の準備」も含まれているのです。

今回は、実体験から得た教訓を交え、商談につなげるための実践ノウハウを解説します。

展示会の敵は「月曜日の日常業務」

展示会の会場では、誰もが非日常の高揚感(アドレナリンが出ている状態)の中にいます。 たくさんの名刺交換ができ、「手応えがあった!」「あの担当者は脈ありだ!」と感じる瞬間も多いでしょう。

しかし、本当の勝負はここからです。 展示会が終わった翌週、多くの担当者を待ち受けているのは、「日常業務」という冷徹な現実です。

金曜日に展示会が終わり、土日は泥のように眠り、迎えた月曜日の朝。 出社すると、デスクには会期中に溜まった未読メールの山、既存顧客からの急な問い合わせ対応……。 「展示会のフォローをしなきゃ」と頭では分かっていても、目の前の業務に忙殺され、電話をする時間も、お礼メールを丁寧に書く時間も取れない。 「明日やろう」と思っているうちに火曜日が過ぎ、水曜日になり……。 気づけば、机の上に積み上がった名刺の山が、ただの「紙の束」に変わってしまっている。

これは、決して大げさな話ではありません。私が支援した企業の多くから聞かれる悲痛な声です。 日常業務に戻った途端、展示会への熱量は急速に冷めてしまいます。そして、その間に見込み客(リード)の記憶も薄れ、競合他社に先を越されてしまうのです。

この「日常業務への埋没」こそが、展示会を失敗させる最大の要因です。 これを防ぐためには、「終わってからフォローを考える」のでは遅すぎます。「準備の段階で、フォローまで完了させる仕組みを作っておく」ことが絶対条件となるのです。

会期中の運営:未来のフォローを楽にする「仕込み」

フォローアップを妨げる最大の要因は「誰に何を送ればいいか整理できていないこと」です。 日常業務に戻ってから数百枚の名刺をExcelに入力し、ランク分けをしていては、永遠に終わりません。だからこそ、会期中の「仕込み」が重要になります。

Eightを活用した「即時」

デジタル化 名刺管理アプリ「Eight」などのツール活用は、今や必須と言えます。

その場でスキャン: 名刺交換直後の記憶が鮮明なうちに、ブース裏ですぐに撮影しデータ化します。

タグ付けで未来を予約する: ここで重要なのが「タグ付け」です。単に「Sランク」とするだけでなく、「どんなアクションが必要か」をタグにします。

タグ例:「S_見積送付」「A_事例送付」「B_メルマガ登録」「C_挨拶のみ」 このタグさえあれば、会期後にリストを開いた瞬間、思考停止することなく「Sタグの人に見積もりメールを送る」という作業に着手できます。

運営ルールの徹底

「後で思い出そう」は禁句です。人間の記憶力ほど当てにならないものはありません。

名刺へのメモ書き: デジタル化の前、または併用して、名刺の余白に「〇〇の課題あり」「決裁権あり」「来月リプレイス予定」などの生々しい情報を必ずメモするルールにします。

定例ミーティング: 毎日終了後の15分で、「今日出会ったSランク顧客(最重要顧客)」の情報だけはチーム全員で共有します。「このお客様には、明日私が会場から電話します」と、その場でアクションを決めてしまうスピード感が命です。

接客の極意:売り込みではなく「提案」を

スムーズなフォローアップにつなげるには、会期中の接客で相手に「また話を聞きたい」「資料が欲しい」と思わせておく必要があります。

動的待機で心理的ハードルを下げる

ブース前で腕を組んで仁王立ちしているスタッフに、声をかけたいと思うでしょうか? 資料を整理したり、簡単な作業をしたりして動いているスタッフには、来場者も「すいません、ちょっといいですか?」と声をかけやすいものです。これを「動的待機」と呼びます。まずはブースに入ってもらいやすい空気感を作ることが第一歩です。

「課題解決」と「オファー」のセット

一方的な商品説明(スペック語り)は、相手の記憶に残りません。 「御社のその課題なら、この機能で解決できます」という「解決策(ソリューション)」を提示し、さらに「詳細なシミュレーション診断が無料でできます」「他社の導入事例集を差し上げます」といった「次のステップ(オファー)」を提示します。 ここで相手が「それは知りたい」となれば、それはもう立派な商談の始まりです。

会期後のフォローアップ:準備段階で勝負は決まっている

冒頭でお話しした通り、展示会後は日常業務の波に飲み込まれます。 だからこそ、「フォローメールの文面」も「送付する資料」も、すべて展示会前に完成させておくのです。

鉄の掟「メールテンプレートは事前に作る」

「展示会が終わってからメール文面を考える」から遅れるのです。準備段階で、以下のパターンの下書きを作成し、メール配信システムやPCにセットしておきます。

【パターンA】Sランク(今すぐ客)用

件名:【ご提案】〇〇展での課題解決について(担当:村上)

本文:「先日は〇〇の件でお話しでき、大変勉強になりました」と具体的に触れ、次回アクション(訪問日程候補など)を含めた内容。

【パターンB】Aランク(興味あり)用

件名:【資料送付】〇〇展ご来場のお礼と詳細資料について

本文:汎用的なお礼に加え、「お話しした事例の詳細資料をお送りします」とダウンロードURLを添付。

【パターンC】B・Cランク(挨拶のみ)用

件名:〇〇展ご来場のお礼

本文:お礼+メルマガ登録案内や次回セミナー告知。

これを用意しておけば、会期後はEightでタグ抽出したリストに一斉送信(あるいは微修正して送信)するだけで済みます。これなら、どんなに忙しくても対応可能です。

スピード勝負:土曜日フォローの推奨

多くの企業は週明けの月曜日にメールを送りますが、それでは日常業務に忙殺された相手に見てもらえません。 私のおすすめは「展示会直後の土曜日」です。 最近のビジネスパーソンは、スマホでメールをチェックしています。土曜日は他社からのメールがほとんど来ないため、スマホの通知画面で自社のメールが埋もれることがありません。「熱心な会社だな」という印象を与えつつ、じっくりと内容を読んでもらえる可能性が高いのです。「土曜日中に送信予約」をしておくのも一つの手です。

記憶を呼び覚ます工夫

メールには必ず、「ブースの写真」と「担当者の顔写真」を入れてください。 文字だけのメールでは「どこの会社だっけ?」となりますが、写真があるだけで「ああ、あのブースのあの人か!」と記憶が蘇ります。この視覚的なフックがあるだけで、返信率は劇的に変わります。

AI活用と効果測定:次につなげるPDCA

AIロールプレイング

接客スキルを高めるために、ChatGPTなどのAIボイスモードを活用したロールプレイングも有効です。「関心はあるが疑り深い顧客」「予算にシビアな決裁権者」などの設定をAIに与え、壁打ち練習を行うことで、現場での対応力が磨かれます。

定量的な効果測定(CPL)

最後に、必ず数字で振り返ります。

CPL(リード獲得単価): 出展総費用 ÷ リード獲得件数

「忙しかったけど頑張った」という精神論で終わらせず、この数字を記録することで、「次回はもっとこう準備しよう」「フォロー体制をこう強化しよう」という具体的な改善策が見えてきます。

いかがでしたでしょうか。

「展示会後の日常業務」という壁は、想像以上に高く厚いものです。 しかし、それを前提とし、「忙しくなる自分のために、今のうちに準備をしておく」という思考に切り替えるだけで、結果は劇的に変わります。

展示会は、名刺を集める場ではなく、未来の顧客との関係をスタートさせる場です。 今回ご紹介したノウハウが、皆様の展示会出展を「やりっぱなし」にさせず、確実な成果に結びつける一助となれば幸いです。

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