はじめに
企業経営において、利益を追求することと同じくらい重要なのが、日々の資金繰り管理です。どれほど優れた商品やサービスを提供していても、支払いに必要な資金が手元になければ、事業の継続は困難になります。
私は金融機関での融資業務を経て、現在は中小企業診断士として事業再生の現場に携わっています。その経験から言えるのは、資金繰りの課題は決して特別なことではなく、多くの経営者が一度は直面する可能性のあるテーマだということです。
本記事では、借入金の返済計画を見直す「リスケジュール(条件変更)」について取り上げます。リスケは財務改善のための一つの手法であり、万能薬でもなければ、利用すべきでないものでもありません。その仕組みとメリット、そして制約について、事実をもとに整理していきます。
リスケジュール(条件変更)の基本的な仕組み
リスケジュールとは、金融機関との合意に基づいて、借入金の返済計画を見直すことを指します。具体的には、毎月の元金返済額を減額したり、一定期間は元金の返済を猶予して利息のみの支払いにするといった対応が考えられます。
ここで重要なのは、リスケは借金そのものが減るわけではないという点です。あくまで返済のペースを調整することで、本業を立て直すための「時間」を確保するための手段です。この点を理解しておくことが、リスケを有効に活用する第一歩になります。
条件変更の検討が必要となるサイン
リスケの検討が必要かどうかを判断するには、まず現状を数字で把握することが欠かせません。資金繰り表を作成し、今後数か月から半年程度の資金の流れを予測してみてください。その結果、将来的に資金不足が見込まれるようであれば、早めの対応が求められます。
具体的には、次のような状態が見られる場合は注意が必要です。
まず、本業で稼いだキャッシュフローの範囲内で、約定通りの返済を続けることが難しくなっている場合です。売上が減少していたり、利益率が低下しているにもかかわらず、返済負担だけは変わらないという状況は、徐々に経営を圧迫します。
次に、借入金の返済のために新たな借入を繰り返す、いわゆる「自転車操業」に近い状態です。資金を回すために借りる構造が続くと、いずれ限界が訪れます。
さらに、税金や社会保険料の支払いに遅れが生じ始めている場合も、危険な兆候です。これらは事業を続ける上での基本的な義務であり、ここに影響が出ているということは、すでに資金繰りがかなり厳しい状態にあると考えられます。
もちろん、経費の見直しや業務の効率化など、自社でできる改善努力は大切です。ただし、事業継続に必要な運転資金や体力を使い果たしてしまう前に、客観的な数字をもとに判断することが重要です。
リスケジュールのメリットと留意点
リスケの最大のメリットは、毎月の現金流出を抑えることで、当面の資金繰りを安定させられる点にあります。返済負担が軽減されれば、その分の資金を運転資金に回したり、事業改善のための投資に充てたりすることができます。
また、資金繰りの悩みから一時的に解放されることで、経営者が本業の立て直しに集中できる環境が整います。目先の支払いに追われる状況から脱することで、冷静に経営課題に向き合う余裕が生まれるのです。
一方で、リスケには制約もあります。
まず、リスケ期間中は原則として新規の融資を受けることが難しくなります。金融機関としては、既存の返済計画を守れない状態で新たな資金を貸し出すことはできないためです。設備投資や事業拡大のための資金調達が必要な場合には、この点が大きな制約となります。
また、金融機関に対して定期的な経営状況の報告(モニタリング)が求められます。月次の試算表や資金繰り表を提出し、経営改善の進捗を説明する必要があります。
そして何より重要なのは、リスケはあくまで時間を稼ぐための手段であり、経営改善に向けた具体的なアクションが伴わなければ意味がないということです。返済を猶予してもらっている間に、いかに収益力を回復させるかが問われます。
リスケジュールを検討する際の実務的なステップ
リスケを検討する場合、以下のようなステップで進めることをお勧めします。
資金繰り実績と予測の整理
まずは現状を正確に把握します。過去数か月の資金繰りの実績を整理し、今後の見通しを立てます。どの時点で資金が不足するのか、どの程度の返済負担の軽減が必要なのかを明確にします。
金融機関への誠実な相談
返済が滞ってから相談するのではなく、資金繰りが厳しくなりそうだと分かった時点で、できるだけ早くメインバンクに相談することが大切です。現状と今後の見通しを率直に伝え、どのような対応が可能か意見を聞きます。
経営改善計画の策定
金融機関が最も知りたいのは、「どのように収益を改善し、いつ正常な返済に戻れるのか」という道筋です。単に「売上を増やす」といった抽象的な計画ではなく、具体的な施策とその根拠を示した経営改善計画を作成します。
専門家との連携
中小企業診断士などの第三者の専門家を交えることで、計画の実効性や客観性を高めることができます。また、金融機関との交渉においても、専門家の視点が入ることで信頼性が増します。
財務改善と並行して取り組むべき経営改善

リスケで時間を確保したら、その間に本業の立て直しに全力を注ぐ必要があります。
収益性の向上
売価の見直しや原価の低減、不採算部門の整理など、利益を生み出す構造を改善します。特に、赤字の事業や商品を抱えている場合は、思い切った判断も必要になります。
資産の有効活用
遊休資産や使っていない設備、在庫などがあれば、売却して資金を捻出することも検討します。資産を現金化することで、運転資金の補充や借入金の一部返済に充てられます。
固定費の適正化
人件費、家賃、リース料など、毎月必ず発生する固定費について、聖域を設けずに見直します。ただし、事業の根幹に関わる部分まで削ってしまうと本末転倒ですので、バランスが重要です。
最後に:持続可能な経営を目指して
リスケは決して「延命策」ではありませんし、「万能薬」でもありません。リスケをすれば問題が自動的に解決するわけではなく、あくまで事業を再生し、継続させるための土台を作る手段です。財務を安定させた後は、本来の強みを活かした収益力の強化が重要になります。リスケで得た時間を無駄にせず、どのように事業を立て直すのか、経営者としての本気の取り組みが求められます。
もし資金繰りに不安を感じていたり、返済計画に悩んでいる場合は、一人で抱え込まず、早い段階で信頼できる専門家に相談することをお勧めします。早めの相談は、結果として多くの選択肢を残すことにつながります。
中小企業診断士として、事業再生の現場で多くの経営者と向き合ってきた経験から申し上げれば、適切なタイミングで適切な対応を取ることで、窮地を乗り越えた企業は数多くあります。リスケはその選択肢の一つであり、使い方次第で事業継続の力強い支えになります。
財務の課題は、経営者にとって大きなストレスになりますが、冷静に現状を見つめ、必要な対応を取ることで道は開けます。この記事が、皆様の経営判断の一助となれば幸いです。
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